イランの朝は早い。
朝の8時だというのに銀行も、パン屋も、そしてケーキ屋まで開店している。
何の店でも開いているかというと決してそうではないのだけれど、銀行とケーキ屋が朝の8時に開く国なんてそうあるものではないのではないだろうか。
パン屋は盛況で今日も行列ができていた。
ホテルの近くに駐車された車。
エンジンが閉まらなくなってしまったらしい。
対処の仕方が大胆でつい振り返ってしまう。
緩んだものは紐でくくってしまえばいいという当然と言えば当然な発想なのかもしれない。
鉄道駅へ
今日は朝から鉄道駅に行く事にした。
テヘランから北西のTablizという街の方面へ夜行列車で行く為のチケットを取る為だ。
本当はネット予約等で済ませてしまいたかったのだが、時刻表はアクセスができず、チケット予約は取り扱いをやめてしまったり扱いがない旅行会社ばかりだった為、かえって億劫になり、直接出向く事にした。
鉄道駅にはメトロが直結している為、まずはメトロの駅に向かい、改札近くの窓口を尋ねる。
昨日チャージができなくて困っていたezpay card(suicaの様なもの)は今日もデビットカードでの支払いがエラーになり、状況は変わらなかった。
現金での支払いは受付けて貰えないらしい。
そこで駅員の方が財布を取り出してプライベートのデビットカードで代わりにチャージをしてくれた。
現金を渡すとそれを受け取りお釣りも財布から出してくれた。
今日もイランの方の好意に甘えっぱなしだ。
これがテヘラン市内のメトロ路線図だ。
目指すはRahahan駅という中央駅。
メトロの駅構内の標識を見ていると日本では見かけない様なものもある事に気づく。
犬の乗車禁止。
裾の巻き込み注意。
(女性はアバーヤと呼ばれる足首も隠れる程に丈の長い黒いコートを着用する人もいる)
アバーヤの巻き込み注意のサインは車両のドアにも見られた。
地下鉄を降りて鉄道駅に到着する。
混雑を避けようと朝の9時に着いたのだが、既にある程度人がいるようだった。
チケットを求めるのは骨の折れる体験だった。
何しろそこにはきちんとした列という列がなく、誰もあまり順番を守らない。
皆が皆、我先にと窓口に顔を突っ込んでチケットを買い求める。
ペルシャ語は喋れないし、英語は通じているか分からないから極力単語だけで短く言わなければならない。
遠慮をしていては永遠にチケットは手に入らないから自分も人だかりに割り込んでとにかく簡潔に何が欲しいのかを伝えなくてはならない。
紙に英語とペルシャ語の単語を少し書いたものとパスポートをどうにか窓口の係員に手を伸ばして渡した。
ペルシャ語なんて書いた事はないけれど翻訳アプリに表示されたものを模写をするごとく注意深く観察しながらボールペンで書き写した。
他の客も次々と押しかけて用件を言うからこちらもまた席は取れるのかと何度も催促しなければならない。
案の定今日も明日も、今週も来週も、昼も夜も何もかも、来週いっぱいまで満席の様だった。
鉄道が使えないとはっきり分かった事で頭がすっきりした。
夜行のチケットが取れるのか、あるいは昼の列車になるのか、それが何日か先になってしまうのかと昨日から旅の計画をどうしたいいものかと頭を悩ませていたのだ。
(筆談のメモ、係員も返事を書いて返してくれた)
用は済んだ、自由の身だ。
という訳で鉄道駅構内をぶらつき始めた。
文房具屋
ショーウィンドウに並ぶボールペン
キャラクターやアボカド等のフルーツもの
怪獣の5色ペン
階段で2階へ上がるとそこにはフードコートもあった。
意外にもハンバーガー等のファストフードばかりの店が並ぶ中、本格的なケバブ屋もあるようだった。
トマトだけを串に刺した山盛りのバーベキュー。
肉だけであったり、数種類の野菜と肉を刺したものは見かけても、こんなにトマトばかりを刺して食べる人もあるのかとつい惹かれてしまった。
写真を見るとこんな風に強めに焦がして付け合わせとして並べて食べる様だ。
玩具屋も覗いた。
ウィンドウに近寄るとおやっと思うようなものが目に飛び込む。ピカチュウだ。
どういう訳だろうとぶら下がっているものを片っ端から見ていった。
すると割に有名なキャラクターものが多く売られているようだった。
それも日本の物が多い。
少しキャラクターのデザインが違っていたりもしている為、正式なものではないのかもしれない。
日本のキャラクターが受け入れられているのだという事自体は嬉しい気持ちがする。
何だかあまりにも沢山の種類があって食い入る様に見物してしまった。
結局は何も買わず仕舞いだったけれどこれだけで30分近くは楽しめたと思う。
あれだけ熱心に見て何も買わないとはと店主は不思議に思ったかもしれない。
しかしイランでピカチュウに遭う事になるとは全く思いがけない出逢いだった。
続いて香水店へ。
何となく物珍しいので眺めていただけだったのだけれど店員の女性がずっと翻訳アプリを使いながら接客してくれて何だか悪いと思い1つ買う事にした。
一通り蓋を開けては香りを嗅いでみて好みのものも見つかったのでそれを一番小さな容器に入れてもらう事にした。
この瓶から好きな大きさとデザインの容器に移し入れたものを購入できるらしい。
瓶は下段中央の透明で小さなゴールドのキャップのものを選んだ。
しかし会計の時に問題が起きた。
こんな小さな瓶の香水が40ドル近くもするようで自分にはとても予算外だった。
驚いているとやり取りを聞いていたのか周りにはあまり人気がなかったのだが、通りがかりのイラン人男性が間に入ってくれた。
英語を話せるようだったので素直に思ったよりも高くて買えないという旨を話した。
値段の事を言っても買わないの?とニコニコしている。
正直なところ旅行者用の値段で売ろうとされているのかと思った為、値段を聞いても現地人が驚かないのは少し意外に思えたところもあった。
結局わざわざ小瓶に移し替えてもらった後だったが購入を断り店を後にする事にした。
しかし後でこの事を後悔する事になる。
桁が多いのでイランの通貨の計算が’よく分かっておらず、一桁多く勘違いしていたのだ。
つまりそれは40ドルなんかではなく4ドルだったのである。
通りがかったイラン人男性の笑顔にも頷ける。
それほど大した買い物ではなかったのだ。
さんざん時間をとって瓶も1つ汚させてしまい申し訳ない事をしてしまった。
駅構内の見物はこれで終え、その後は駅の外に出た。
中にいる時にはわからなかったけれど改めて外から眺めた駅舎は堂々として立派なものだった。
観光開始
ここから真っ直ぐ西の方に進めば観光地の1つに行ける事が分かっていたので進行方向のバスに乗る事にした。
どうせバスも一直線に進むだろうし、乗り換えの事など考えなくともちょっと乗って適当なところで降りればそれで済むだろうという考えからだった。
しかし乗り方がよく分からない。
イランのバスはドアを開きっぱなしで走行する。
これはもしや追いついて飛び乗ればいいのではないかと考えがよぎった。
しかしそんな事をしている現地人は見る限りどこにもいないようだった。
そこでマップを見る事を思いつく。
すると現在地の近くにバス停のマークがあった。
歩いてそこまで行くとそこにはきちんとバス停というものが見つかった。
一安心だ。
バスも丁度そこへやってきた。
男性は前側の扉から、女性は後ろ側の扉から乗車する事になっている。
男性列の後に続いて乗車し、席に腰を落ち着ける。
バスからの眺め。路上の果物屋。
目的地が近づいてきたのでバスを降りる。
目的だったのは観光ポイントになっている綺麗な装飾の門だったのだけれど、それは丁度降りたバス停の真向かいにあった。
さっそく通りの反対側から写真を撮る。
しかしここである間違いに気づく。
これは目的だった門ではなく、ただのカルチャーセンターの建物であったようだ。
文化財と見紛うような建物が当たり前に使用されているのもすごい事だとは思うが、歴史や価値は別にしても綺麗なものが見られてこれはこれとして良かったと思う。
目的だったものはこのカルチャーセンターのすぐ近くにあるこちらの門の方だっだ。
明るいブルーを基調としたタイルの装飾と独特な棒状の角が美しい。
お菓子の国の家のようにも見える。
門を潜り抜けてその向こう側へと歩いてみると放し飼いの鶏が歩いていた。
ナンを売る店、軽トラックの荷台で商売をするみかん売り、周りには何があるという訳でもなさそうで、ローカル色の強い場所だった。
門を観にくる観光客も一人もおらず静かな時間が流れている。
脇道へ入ってみると寂れた感じのモスクがあったり、その途中にはガソリンスタンドが見えたりした。
名所でも何でもないけれどそういう土地のものを脇目に眺めながら歩くのも悪くはない。
塗装の剥がれた寂れたモスク
金色の玉ねぎ帽子のモスク
ガソリンスタンド
大通りの方に戻ってくると、そこにカフェか何かがあるのが見えた。
何を覗くとそれは菓子店だった。
多くのパイやシュークリーム、ケーキが並ぶ。
チョコレートのたっぷりかかったものもある。
迫力のあるデコレーションケーキ
クリームがカップいっぱいに詰まったデザート
クッキーの山
店を出てさてどうしようかと外に佇む。
すると客として中にいた女性がこちらに向かって何か話しかけてきた。
よく分からないけれど店員の青年が何か言っているらしい。
写真ばかり撮って出ていったので気分を害したのだろうか。
そう思ってもう一度店内に戻るとレジにいた大学生位の青年が何か話しかけてきた。
女性が通訳してくれる。
どうやらなぜ写真を撮っているのかと聞いているらしい。
別に怒っている訳ではなく、そんな事をする人もいないので単純に不思議だったようだ。
I love Japan! Welcome to Iran!
日本から旅行で来ていてどれもとても綺麗だったから撮っていたのだと伝えると、そんな風に満面の笑みで歓迎してくれた。
その後、店を後にして大通りを道なりに少し歩き、バス停からバスに乗る。
東方面にひたすら直進し、そろそろ北上したいという地点で降車する。
するとまず目についたのは路上に並んだ沢山の鍋だった。
調理器具や食器を売る店らしい。
大胆なやり方には見えるけれどこの店構えで外に鍋や写真が無ければ素通りされてしまうだろう。
向かいには対照的に巨大で新しいショッピングモールが建っている。
入ってみようかと思い道を渡って入り口に向かう。
すると向かいに別の小さなモールがあるのを見つけた。
何だかあっちの方が面白そうだ。
大型ショッピングモールにあるものなんて高が知れているだろうという気になり、
もう一度通りを渡り直してこちらの小さな方のショッピングモールに行ってみる事にした。
ウィンドウに何やら色々な物が並んでいる。
食器店の様だ。
中に入ると綺麗な器やカップ、皿等が所狭しと並んでいる。
ちょっとデザインが変わっているものや、模様が綺麗なものが沢山ある。
半端な博物館を訪ねるよりこういうものを見ていた方が余程楽しめる気もする。
このカップが欲しかったのだけどまだ他の街へも行かなければならないし、荷物は増やせないので諦めた。
最後に訪ねる街で同じようなものが見つかる事を祈って店を後にした。
その後は一旦バスに乗って観光名所の点在している北の方面を目指す事にした。
少し歩くとバスの営業所のようなところがあり、そこから出発しようとしているバスがドアを開けて止まっていた。
丁度いいので乗り込み席に座る。
運転手はまだ席にいない様だった。
エアコンの無い車内で暑さに耐えながらバスが出発するのをじっと待つ。
一人、二人と乗り込んで乗客が増えて行く。
すると空席がいくらでもある中、18歳位の青年がわざわざ自分が座っている2人席の隣に座ってきた。
運転手も乗り込みバスが発車する。
何は目的なんだろう。
売りたいものでもあるんだろうか。
身構えるような心持ちでただ前を向いて黙っていた。
すると青年が話しかけてきた。
どこから来たのか、なんの仕事をしているのか。ホテルはどこに取っているのか。
そんな他愛のない話が続く。
結局のところただフレンドリーなだけの青年で、単に話しかけたいというだけの事だった。
アフガニスタンから移住してきてイランでバッグを作って売る仕事をしているらしい。
祖国にいるのは安全ではないようだ。
20分近くバスに揺られ、各々に別の駅でバスを降りた。
人懐っこさはアフガニスタンの人々にも共通のものなのかもしれない。
いつかアフガニスタンや近隣の国にも行ってみたいものだ。
バスを降りた後はメトロに乗り換える。
プラットフォームの近くには購入して家に持ち帰るところなのか、子供用のピンクの自転車が放置されていた。
割と空いている訳ではない車内にこんなものを持ってどうやって乗り込むんだろう。
国立美術館
地下鉄を降りた後は国立美術館に向かう事にした。
分かりにくいがこのビジネスオフィスのようなところが入り口のようだった。
係員にパスポートを預けて中に通してもらうと、敷地内にある別の建物を訪ねるよう案内された。
敷地内を歩いていくと確かにそれらしい建物が見えてきた。
これなら一目で国立美術館と分かる建物だ。
入り口に立つと壁一面、天井一面に水色と白色の装飾が広がっていた。
壁や柱から家具まで装飾だらけのようでいてこの水色の淡さもあってかどこかシックで落ち着いた空間に感じられる。
アート作品も展示されている。
煙草を吸う老人, Hossein Behzad, 1953年
特徴的な形の花瓶
花と女性が描かれたセラミック製のテーブル, 1961年
結局ここでは滞在中一人も来館者がいなかった為、独り占めの状態で鑑賞ができた。
この後はGolestan Palaceという19世紀にガージャール朝という王朝の頃に利用されていた宮殿を訪ねた。
Golestan Palace
ここではそう多くはないものの他の観光客の姿を見る事ができた。
どうやらイランでの旅行者がこの国中で自分ただ一人という訳ではないらしい。
ここでも壁中にブルー基調の特徴的なタイルのアートが施されているのが見られる。
ガージャール朝のプリンスと表記されていた絵画(1803年)
プリンセスの間違いかもしれない。
こちらもプリンスの油絵
フランス製のピアノたち
蝋燭台が2本取り付けられている。
展示品
牡蠣の殻で作られた小箱
デスク用具
エナメルの万年筆、両側に腕を広げる蝋燭立て
タイプライター
左側にあるのはレターオープナー、ドイツ製のはさみ
ここからは一面シルバーの豪奢な装飾の空間が広がる。
シャンデリアが豪華な宮殿やモスクは他国で見てきたけれど、壁一面をこんな風に煌びやかに飾り立てるような大胆な装飾を見るのはイランが初めてだ。
贅を尽くした異空間といった風で、その時代にいればこんな総大理石の階段をゆっくりと上って行く間にもこれから凄い国の王様に謁見するんだという緊張感が高まっていきそうだ。
巨大なカーペットが敷かれた大広間
ギラギラの応接間
ペルシャ絨毯というのはこんな空間と調和して引き立てるのに最も役立つものなのだと思わされる。
いよいよ王様との謁見の叶う大広間へ。
この空間も絨毯が無いと寂しいものになってしまいそうだ。
背面の煌びやかな装飾やシャンデリアももちろん凄いが、王と王女の椅子のデザインが素晴らしい。
どうやっても中々思いつかないような宇宙的な神秘さとでも言えばいいのか、独自性やユニークさに溢れていている。
一通り見学を終えた後は宮殿の外の広場のベンチで少し休憩した。
しばらくただその場、その空間にいる事を感じながら過ごした。
いそいそと移動せずに余韻に浸るのも良いものだ。
この度では旅の経験が単なるスタンプラリーにならない様にある程度効率を無視した時間の過ごし方をする様にしている。
Tehran Grand bazaarへ
宮殿を出るとそこには中規模の公園があった。
人々は芝生で思い思いに自由に寛いで過ごしている。
人間らしくていいものだ。
そう言えばインドネシアでもこんな風に人々が公園で寛ぎながらゆっくりと時を過ごしていたのが印象的だった事を思い出す。
公園を抜けると賑やかなエリアが広がっていた。
どうやらバザールの様だ。
バザールではお馴染みのスパイス店が見られた。
フルーツジュース店があったので店頭の男性から人参ジュースを購入した。
顔よりも面積が大きい位の大分立派な髭で一見気難しそうかと思ったが、にっこり笑ってJapon? Welcome to Iran!と声を掛けてくれた。
どこかでゆっくり飲もうと辺りを見回すと噴水の広場があったのでそこへ腰掛ける事にした。
何か黄色いものが入っていて気になったので何だか分からずに指をさしてそれを買った。
マンゴーアイス入りの人参ジュースらしい。
舌鼓を打って楽しんでいると隣に座っていた青年に話しかけられた。
彼もまたアフガニスタン出身だと言う。
偶然の重なる日だ。
家に来ないかとまで言ってくれたが行きたいところがあった為、断ってしまった。
本当にフレンドリーな人々だ。
しかし人出の多いバザールだ。
人、人、人。人の大洪水だ。
人だかりの中で売っているものは大したものではなく、安サンダル、ジャージ、靴下やパンツ、スカーフ、ティーシャツ、文具といったものばかりで特別なものは何もない気がする。
まあ祭りやバザールなんて人混み自体を楽しむのが目的のようなものかもしれない。
しかしここで驚いたのは商売人気質だ。
今までどこの国に行っても物を売りたがっている商売人というのをあまり見た事がなく、どちらかというと見かけるのは売り物の前に座って心から不服そうに時が過ぎるのをこの世の終わりのような顔をして待っているという風な人々だった。
でもここは違う。
商売に熱心で大きな声を張り上げて売り込みをかける商人達がちらほら見られる。
まるでアメ横でも歩いているようだ。
乾物屋
香水店
何だか人混みと喧騒にも疲れてきた為、バザールの中のショッピングモールに逃げ込む様にして入った。
外は通りを埋め尽くす程に人で溢れいてるがモールの中は割とそうでもない。
お陰で少しゆったりとする事ができた。
ヒジャブ店
カジュアル服店。
ヒジャブを巻いたマネキンが見られるのが新鮮だ。
雑貨屋
不思議な宇宙うさぎの様なキャラクター。
もしかしたら日本かどこか他国の有名なものなのかもしれない。
服飾店
奇抜な服も売られていてる。
デザインが面白いのでつい写真を撮りたくなってしまう。
自由なファッションだ。
子供服も遊び心があっていい。
モールを出てまたバザールの人混みの中に帰る。
滞在できている間に色々と試そうとまたフルーツジュースを購入した。
これは見た目からして平凡であまりぱっとしない気がして気が進まないままに何となく買ったのだけど、爽やかで香りも良く、なめらかで口当たりもいいのでとても気に入った。
恐らくは洋梨か何かのジュースだと思う。
それ程長くいる気もなかったのだけれど、日も暮れて来たので夕飯もバザールで済ませる事にした。
何だかはよくわからないけれどこういうものをパンに挟んで食べるらしい。
3つの内のこれにする事にした。
写真ではそう見えないが割と大きく具も相当にサービスが良いのでとても食べきれない程の量だった。
また、量だけでなく、きちんとしたレストランに入らずとも毎回こういう食事でいいと思える程の質だった。
余ったものは温め直して翌日の朝食にした。
Miliad towerへ
食事を済ませた後はメトロに乗ってMiliad towerというテヘランの名所になっている電波塔に向かう事にした。
テヘランの東京タワーのようなものだ。
バザール直結の駅である為、凄い混み様だ。
地下鉄構内の広告
写真もローマ字も無いペルシャ文字のみのシンプルなデザインで何だか分からない神秘的な感じが良い。
地下鉄は適当なタワーの方角にある駅で降りて後はタクシーで向かう事にした。
何だかよく分からないけれど駅の周辺はドレスを売る店ばかりが軒を連ねていた。
一体どういう場所なのだろう。
そしてイラン人女性達はどういう機会でどんな風にこんなドレスを着るものなのだろう。
宗教上、外や男性の前では肌を隠す風習の生活の上でもこういうドレスを着るとすれば何か他のアイテムと上手く組み合わせて肌を隠しながら成立するファッションを楽しんでいるのだろうか。
ともかく美女揃いのイランだからどのドレスに袖を通しても女性達が映えそうだ。
デザインも芸術性が高く、こんなものが出るところに出ていけば世界を席巻しそうだ。
しばらくしてタクシーもつかまり移動する。
車の窓からMiliad towerが見える。
ドライバーは大学生位の青年で、車内で最近のJ-POPを何曲も流してくれた。
程なくしてMiliad tower の真下に到着する。
高さ435メートルの世界で7番目に高い電波塔らしい。
入り口付近のカフェレストランはネオンライトに彩られて小洒落ている。
丸でバーの様だけれど、もちろんここはイランだから宗教上の理由で酒類は提供されていない。
歩いているとサブウェイの看板のようなものが目に入り足を止める。
よく見ると FRESHWAYと書かれた全く関係のないファストフード店だった。
ここはイランだ。
アメリカ資本のサブウェイもマクドナルドもスターバックスもここには存在しない。
いよいよメインエントランスからタワーの中へと向かう。
観光名所とあって家族連れが多く、程よい程度に賑わっていた。
ぐるりと塔を巻く様にしてできているフロア。
窓際に並べられたテーブルで食事をする人々の姿が見える。
展望台以外にも何かしらありそうだ。
中に入ってエスカレーターで上がってみると綺麗なショッピングモールのスペースが広がっていた。
更に上へ行ってみると広々としたフードコートもある。
ここでファストフード店のアルバイトの青年が話しかけてくる。
ハンバーガーはどう?
こういうのもあるよ。
食事は済んだの?
あっちの店はどう? ジュースもあるよ。
⚪︎⚪︎のジュース、××のジュース、アイスクリームもあるし、それから、、、。
終始ペルシャ語だけれど身振り手振りや状況から大体言っている事は分かった。
売るのが目的という訳ではなく、ただただフレンドリーで良くしてくれるのでアイスクリームを頼んでみる事にした。
食べている間もずっと横で何かを話しかけてくれていた。
何かを質問したりする訳ではなく、最近あった事の話か何かを楽しそうに延々と語っている。
身振り手振りもあるけれど全く何の話をしているのか一ミリも想像できない。
こんな場合には言葉が分からないとか、どういう意味なのかとか、そんな事はどうでもいい事だと思う。
友好的な態度を示してくれるだけで十分だ。
英語なんか話してくれなくともどうでもいい気持ちになる。
だからただただそれを聞いていた。
昔お世話になったある大阪のシェアハウスの管理人の男性の事を思い出した。
何を聞かれても何をして欲しくても一切英語は喋らないけど日本語の分からない外国人に終始関西弁でまくしたてて何でも済ませてしまう。
伝わる事もあれば伝わらない事もあるけれど、何か気にかけてくれたり働きかけてくれているんだという事は相手もわかる。
言語にだけにこだわって顔を見るなりコミュニケーションを拒否してしまったり助けを呼ぼうとおろおろするよりも、潔い程に日本語だけで通しながらも相手の目を見て心に働きかける人の方が相手にとっては余程通じ合える存在になると思う。
そういう意味で日本で外国人を迎えるのに英語なんて本質的な問題にならないのではないかとつくづく思う。
ところでアイスの味はというと説明の難しいところで、見た目はかなりごてごてとしているのだけれど割とシンプルでさっぱりとしたものだった。
何なのかは分からないけれどマンゴーとピスタチオとかそういうものだったかもしれない。
1ユーロ位のものだった。
結局展望台には上がらなかったがフードコートの窓ガラスから見る景色もそれなりに見晴らしが良く楽しめた。
観覧車が見える。
最後にタワーを下り、タクシーで帰る前に残高を見ようとATMに寄った。
しかしここで悲劇が起きてしまう。
ボタンの内の1つが壊れていたせいでカードを飲み込まれたまま取り出せなくなってしまったのだ。
銀行窓口は目の前にあるがとっくに閉まっている。
デビットカードはもはやライフラインでこれが無ければとたんに身動きができなくなってしまうから大いに困ってしまった。
必死になって壊れたボタンをガシガシと叩き続ける。
せっかく楽しい気分で1日を終えようとしていたところに何と馬鹿らしい災難に遭ってしまったんだろう。
そう思って半ば諦めようとしていた時、肩越しに気配を感じると、どうしたの?と通りがかりの青年が話しかけてきた。
事情を話すとパネルを操作したりボタンを叩いたりと懸命に助けになってくれた。
それでもどうにもこうにも解決しない。
粘り強く操作をし続け、もう駄目かとも思った最中、突如としてカードが返却口に出てきた。
心から安堵した瞬間だった。
礼を述べると青年はATMを使う訳でもなく立ち去っていく。
後ろに並んで順番を待っていて迷惑をかけていたのかと思ったが全くの通りすがりだったらしい。
何という親切心だろう。
本当に関心してしまう。
このようにして1日を終えた。
観光らしい観光ができた1日だった。